年収600万円の社員が6か月休職した場合の損失額は422万円だと内閣府は試算しています。

一方で、NICE(英国国立医療技術評価機構)の”仕事における心の健康の推進”では、出勤している労働者の心の健康問題による業務遂行能力低下の損失額は、休職による損失額の約2倍だと報告されています。

確かに過剰なストレスを抱えている部下の計画立案能力や判断能力の低下には気づくことがあるので、NICEが報告している心の健康問題と業務遂行能力低下の相関、および規模には納得感があります。

社会の動向は、休職による損失額、業務遂行能力低下による損失額を防止すべく、メンタルヘルスは経営課題、従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営、メンタル対策はコストではなく投資。このように言われて久しいです。

問題なのは言われて久しいにもかかわらず、メンタルへルス不調者や休職者は後を絶たず、効果のある対策が実施されていないことです。

それはなぜか。「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に示されている”ラインによるケア”が不十分だからだと思います。

ラインによるケアは、管理監督者による職場環境の把握と改善、部下からの相談への対応です。具体的には、職場の人間関係の問題、仕事の質の問題、仕事の量の問題などを解決することです。

管理監督者はこれらの問題を放置していいとは思っていません。しかしながら、十分にやれていない。問題解決に必要な資源(人、物、金、時間)が足りていないのが現状ではないでしょうか。

管理監督者には労働契約法で事業者に課せられた「安全配慮義務」の実行責任があります。事業者は管理監督者に対しその責任に見合った資源(人、物、金、時間)を提供しているだろうか。管理監督者は事業者に対してその責任に見合った資源(人、物、金、時間)を要求しているだろうか。

この使用者と管理監督者の関係の甘さ、「安全配慮義務」に対する責任感の欠如が不十分な”ライン(管理監督者)によるケア”、メンタルへルス不調者や休職者が後を絶たない状況の根っこにあるのかもしれません。

ストレスチェック制度実施のスタートは事業者による方針表明です。その方針表明のひとつとして、ラインケアに必要な資源(人、物、金、時間)確保をメンタルヘルス対策の投資項目とする。というのはどうでしょうか。

また、管理監督者は、ラインケアの職場環境の把握と改善、部下からの相談への対応もできるように必要な資源(人、物、金、時間)を使って管理監督者自身の業務を見直す。できない言い訳はなしですね。

株式会社ストレスマネジメント実践研究所 北尾一郎
<うつ病のない日本の職場を目指して、プロジェクトの職場環境改善に貢献します>